30年の歯科臨床で、私はたくさんの「歯医者さんが怖い」というお子様と向き合ってきました。
初めて歯科治療を受ける子どもは、「これから何をされるかわからない」という不安を抱えていることが多いものです。
犬の場合でも同じだと思います。
特に「しつけ」に関する事項では、信頼関係が大切です。
ここでは、歯磨きを例にして、お話させて頂きます。
この記事でお伝えすること
診察室で培った「Tell-Show-Do法(説明・実演・実行)」という技術を、我が家のマルポメ【リボンくん】のしつけに応用した体験談をシェアします。
歯科医が実践する「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法とは?
「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法は、歯科医療現場で心理的なハードルを下げるために使われる、最も基本的で誠実なコミュニケーション技法です 。
ある程度、言葉の理解ができるようになった子どもが対象となる技法で、特に恐怖心が強い子どもと向き合うときに有効とされています。
- Tell(話す): 「これから何をするか」を優しい声で伝える。
- Show(見せる): 使う道具を見せたり、触らせたりして。「安全」を確認させる。
- Do(行う): 決して無理をせず、ごく短い時間から実際にやってみる。
Tell( 説明する)
「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法の最初のステップ「Tell」。
実際の小児歯科の現場では、はじめに、これから行う処置の内容を子どもにわかりやすく説明します。
専門用語は使わず、簡単な言葉で治療の流れや目的を伝えることが大切です。
声のトーンには、最大限気を付けます。
優しく、落ち着いて声で。
決して慌てたり、結果を急いではいけません。

Show: 見せる
次に、「Show」のステップで、子どもに実際に使用する器具を見せたり、触らせたりして、怖いものではないことをわかってもらいます。
恐怖心がまだ残っている状態で、お口の中に器具を入れることは避けなければなりません。
時には、器具を腕にそっと触れさせてみたり、鋭利ではない器具であれば、手に持たせてあげることもあります。
もちろん、衛生的な観点では良いことではありませんので、実際に治療するときには器具を取り換える必要があります。
器具を見せながら、第一ステップの「Tell」を組み合わせて、「この鏡はお口の中を見るものだよ、お顔も見えるかな?」といった声掛けなどをして、子どもの不安を和らげます。

Do: 実際に行う
「Do」のステップでは、実際に説明した通りの手順で治療を開始します。
ここで嘘があってはなりません。
もちろん技術的に未熟であると、子どもにも簡単にバレてしまいます。
「Tell」と「Show」で伝えた通りに進行することで、子どもに安心感を与えます。
また、治療中には子どもの反応を注意深く観察し、必要に応じて声をかけたり、励ましの言葉をかけたりすることで、子どもがリラックスできる環境を作ります。
治療の現場では、緊急時は除き、実際に治療に入るまで、このステップを繰り返し行うこともあります。
何度も通院をするのは、保護者にとっても大変なことですが、初めての歯科治療がトラウマにならないように、慎重に進めます。

我が家のマルポメ【リボンくん】は、興奮状態の時には歯磨きが難しいです。
お散歩から帰って、ご飯も食べて、「ちょっと疲れたかな」「満足してるかな」、という状態の方が上手にできました。
【実体験】「怖がらせない」3つのステップ
歯科医療の現場ではごく自然に行っていた「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法ですが、このステップの積み重ねが、歯磨きの時にも効果的でした 。
もちろん、小児歯科領域でよく使われる技法を、犬で全く同じように実践できるわけではありませんが、「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法の考え方は、犬でも応用できると思います。
我が家のマルポメ【リボンくん】にも、「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法を応用してみました。
ステップ①:ポジティブな「声かけ」を添える(Tell)
「今から歯磨きだよ」と、一定のトーンで話しかけます。
人間の子どもでは言葉で理解を求めるのですが、もちろん、犬には言葉の意味はわかりません。
ですので、「Tell」のステップでは、優しいトーンで声をかけることや、繰り返し「歯磨きだよ」のような最低限覚えてくれそうな単語だけを繰り返し使いました。
意味は理解できなくても、飼い主の落ち着いた声のリズムは、犬のバイタル(心拍や呼吸)を安定させる効果があると感じています。
ステップ②:道具を「友達」にする(Show)
犬の場合でも、いきなり歯ブラシをお口に入れたり、歯に当てたりしません。
まずは私が歯ブラシを手に持って、リボンが自分のタイミングで匂いを嗅ぎに来るのを待ちます。
興味を持ったら顔を近づけてきますから、なめさせてあげたり、歯ブラシをおもちゃに見立てて一緒に遊んであげると、嫌なものじゃないんだなと感じてくれるでしょう。
ステップ③:「5秒」で終わらせる成功体験(Do)
「Do」は実際に行うステップですが、絶対に慌てたり、急いではいけません。
最初は口に当てるだけでも大丈夫。
歯ブラシを噛んでしまっても構いません。
我が家の【リボンくん】は、歯ブラシをかじっていました。
まずは、決して嫌なものじゃない、むしろ面白そうと思わせることが大切です。
いきなり歯ブラシをさせてくれる犬は、なかなかいないと思います。
歯ブラシを口に入れる前に、飼い主の指を少しづつ口の中に触れられるようにすることから始めても良いと思います。
一番触りやすい「上アゴの犬歯」を触ってみるのが良いと思いました。
もし歯ブラシを怖がらず、口に持っていくことができたなら、1箇所だけ、1秒だけで終わらせます。
もしできれば、2秒、3秒、、少しづつ増やしていきます。
なんとか歯磨きをしようと、無理やりお口の中に歯ブラシを突っ込むのは避けましょう。
もし、歯ぐきに当たって痛かったりしたら、歯ブラシを見ただけで怯えるようになるかもしれません。
ほんの少しでも出来たら、全力で褒めてあげましょう。
おやつをあげても良いと思います。
歯科治療も「痛くないうちに終わる」という成功体験が、次回の通院への安心感に繋がります。
わずかでも出来て、もし、そのあと嫌がったなら、中断しても構いません。
何ヵ月でも時間をかけて、いつか歯磨きができるようになるといいなと、気長に構えるのが良いと思います。



歯ブラシの使い方も飼い主にとって、歯ブラシの使い方も初めは難しいものです。
飼い主にとっても、扱いやすい歯ブラシを選びましょう。
歯磨きジェルも色々なフレーバーが発売されています。
我が家のマルポメ【リボンくん】は、チキン風味がお気に入りのようです。
しつけは「心の合意」から
医療では、「インフォームド・コンセント(納得と同意)」という言葉があります 。
私にとっての犬の歯磨きは、【リボンくん】に命令を聞かせることではなく、「パパのやることは安全だよ」と納得してもらうプロセスです。
この「心の合意」が得られたとき、はじめて歯磨きをさせてくれるようになると思います。
そして、ケアの時間は、愛犬とのコミュニケーションをより良いものとし、犬のQOL(生活の質)を高める至福のコミュニケーションタイムに変わると考えています。
上顎の犬歯を触られるマルポメ【リボンくん】
まとめ 「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法は、愛犬への優しさに変わる
歯科医として、子どもの治療に応用してきた「Tell-Show-Do(テル・ショー・ドゥ)」法は、犬にも応用できるテクニックだと思います。
あなたの愛犬が何かを怖がっているとき、まずはこの「Tell-Show-Do」を思い出してみてください。
焦らず、一歩ずつ。
それが、一生続く信頼関係への近道です。
【専門性と免責事項について】 本記事は歯科医師としての個人的な知見に基づいた考察であり、獣医学的な診断やしつけの指導を保証するものではありません 。愛犬の具体的な健康状態や行動の悩みについては、必ず専門の動物病院やドッグトレーナーにご相談ください

